- Book Box - 本は宝箱。

SF・幻想文学多めの読書感想サイトです。基本好きな本しか感想書かないので、書いてある本はすべてオススメです。うまくいかない時ほど読書量がふえるという闇の傾向があります。それでも基本読書はたのしい。つれづれと書いていきます。

感想『恐怖と愛の映画102』中野京子著 +ぼくたちのファム・ファタール+ ~一本につき2ページ半の文章と一枚の写真カットにより構成されるサクサク読める映画エッセイ。映画という媒体の素晴らしさを再認識させる明察、名文のオンパレード。

A

自分の人生の主役は自分だ。となると、他人の人生においては、誰もが脇役でしかない。

 

B

小説にしても映画にしても、敵役が強力でなければヒーローも輝かない

 

 

 

まるで箴言のように印象的な書き出しでエッセイは始まる。

 

ほうっと思う間もなくあらすじの説明が来る。込み入った事情でもすっと理解できてしまう整理されつくした書き方。著者がそれぞれの映画の世界観を深く理解しているのがわかるし、印象的なシーンを切り取る視点の良さと語り口の面白さにセンスを感じさせる。

C

断崖絶壁の上に、あぶなっかしく立つ電話ボックス。案の定、車に当てられただけでいとも簡単に、ぽーんとはじき飛ばされる。そのまま、のどかに宙を舞い、はるか下の青い海へと落ちてゆく。中には人がいた。もうこれでは助かるまい。

 

D

究極の別れといえば、死をおいて他にない。誰しもいつかは必ず、この世にさよならを言わなければならない。ニューヨークの古ぼけたアパートに一人住むタフな老女にもその別れのときが迫っていた。彼女は自分の生きた証に何としても語っておきたいことがあった。だが、聞いてくれる相手がいない。そこへたまたま空き巣狙いで忍び込んできた黒人青年、この男を逆に銃で脅し、かつまた値打ちものの古い金貨で釣って、無理やり話をきかせようとする。

 

E

恋ぞすべて。世界を失いて悔いなし-。ドライデンの詩句である。まさにこの映画の主人公がそれだ。彼にないものはなかった。エリートたる教養、財産、地位、美しい妻、優秀な子供。いずれ首相にもなろうかという男盛りの彼の前には、輝く明日が開けていた。そこへ彼女があらわれる。人生には予測もつかない展開がある。彼女は息子の婚約者。たがいに一目で魅かれ合い、愛し合うようになると破滅まで一直線だった。~中略~息子への嫉妬で食べたものを吐くほどの肉体的拒否反応・・・・・。

 

 

 

良き映画はストーリ-自体が面白いものなので、著者のような文章使いが筋を語ればそれだけで充分、人生の深淵を感じてしまう。最後に、その映画が著者に与えた感動・恐怖・疑問・気づき等について書かれる。これが102本分収録された本書を読めば、どんな映画嫌いでも今までにない新鮮な目でもって数本の映画を見るだろう。

 

官能的な表紙の絵は、フランツ・フォン・シュトゥックの『スフィンクスの口づけ』という絵だそうだ。ファム・ファタール(運命の女)との死と隣り合わせの接吻が私たちと映画との恐怖と愛に満ちた関係性なのかもしれない。

 

 

※以下にアルファベットのアンサ-(作品名)あり。あなたはどんな作品を思い浮かべましたか?

 

A 『彼女を見ればわかること』主演 キャメロン・ディアス

B 『逃亡者』ハリソン・フォード

C 『ウェイクアップ!ネッド』イアン・バネン

D 『ダスト』ジョセフ・ファインズ

E 『ダメージ』ジェレミー・アイアンズ