- Book Box - 本は宝箱。

SF・幻想文学多めの読書感想サイトです。基本好きな本しか感想書かないので、書いてある本はすべてオススメです。うまくいかない時ほど読書量がふえるという闇の傾向があります。それでも基本読書はたのしい。つれづれと書いていきます。

感想『極北』ポール・セロー著〜終末文学の傑作。終わりつつある世界の中で人は残されたわずかばかりの食料を、快楽を、権力を奪いあう。そこに道徳が介入できる余地はわずかだ。だがその僅かな閉所こそが、善性であり、人間性というものだ。

ポール・セロー著『極北』。

 

無人の店、窓ガラスはすべて割れている。ビルはもぬけの殻。手入れもされず、そもそも誰いなくなって長い。世界的に都市は廃墟となっており、おそらく電気や水道などのインフラは通っていない。道路は荒れ、人はほとんど住んでいない。そんな死滅状態になって、おそらく数十年が経っている。

 

主人公はメイクピースという風変わりな名前をしている。平和主義の父親がつけた名らしいが、どうやら本人は気に入っていないらしい。この終わりかけた世界のある都市で、そこの廃墟に居を構えている。名前のわりに生きるためには闘いを厭わないタフなやつだ。おそらく他に近隣一帯に住んでいるものはいないと思われる。まず食料が少ない。他にだれもいないから自分で猟をするか、廃墟から食料を探すしかない。

 

メイクピースは世界が壊れ始めたとき、警察官として働いてた。街の秩序を守ろうとしてきたが、ある時から信じられないほど惨めな様子をした人々が大量に街に入り込んできた。守るべき人たちが沢山いた 。だが、少ない資源を暴力によって奪おうといてくる輩もいた。治安は極度に悪化した。

 

そして今は誰もいない。人をほとんど見かけることがない。世界は確実に死にかけている。そんなとき、窓から人が落ちてきた。人と人とが出逢えば即殺し合いにつながるせおの状況の中で、メイクピースは彼を撃ってしまう。だが彼が年端もいかない少年だったことに後悔を感じ、彼を看病し、一緒に住むようになる。  

 

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なんの期待もせずに読んだら傑作だったという嬉しい誤算を味わえた。世界の終わりの中で生きるために抗う物語は、ただそれだけでも読んでいて楽しいものだが、本書には読者の予想を裏切るさまざまな工夫が施されている。

  

読んでいて辛い部分も沢山ある。この世界では人の命は非常に軽い。命は弱いし、失われやすいからだ。相対的に資源や食料は非常に貴重だ。当然奪い合いが起こる。人は生きるために殺しあう。残念なことに豊かな世界でないと人々は助け合えない。この世界の人々におそらく起死回生の一手はなさそうだ。おそらくそう遠くない未来、人類は滅ぶだろう。そんな世界に生きていく上で、私たちは一体どう生きるべきだろうか。もちろんそんなことはわからない。わかっているのはこの本を読んで良かったという自分の気持だけだ。