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感想『三体Ⅲ』死神永生・上下~人類VS三体人。超絶スケールの大SFここに完結する。

 

〜あらすじ

 

全作において一時的に三体文明をしりぞけることに成功した人類。その一方で、極秘のプランが進行していた。

 

『階梯計画』といわれるこの計画は、三体文明に人間のスパイを一人送り込むという奇想天外なものだった。この不可能とも思えるプロジェクトの鍵をにぎるのが、第三部の主人公、若き航空エンジニアの程心(チェン・シン)。

 

そして『階梯計画』のスパイ候補として浮上したのが、彼女の学生時代の友人。孤独な男、天明(ユン・ティエンミン)だった。この二人の関係性がやがて全宇宙の運命を巻き込む壮大な鍵となっていく・・・。

 

 

〜始めに冬眠ありき。

 

第三部における最重要事項のひとつは、人類は冬眠技術を確立しているということだ。第二部においても、面壁者のうち数名はこの技術を使用し、それぞれの研究分野の技術革新が起こるであろう時代まで冬眠する描写がたびたび出てくる。

 

本作において、その傾向はより顕著になっており、程心たちは物語中何度も冬眠を利用する。冬眠から目覚めたときの世界の変わりようが、本書の見せ所のひとつとなっていて、一度の冬眠が数十年と短いものもあれば、劇的に社会の仕組みが変わっている長い年月の時もある。そのたびに程心に対する社会の態度は異なり、またその文明の発展度もまったく異なったものとなっている。

 

著者の創造力と、まったくの無から未来世界を描ききる文章力がいかんなく発揮されているのは、この第三部、死神永生が一番だろう。

 

〜登場人物について

 

 

第三部の主人公、程心については読者によって好き嫌いがあると思う。第二部の主人公ルオ・ジーに関しては、わりとその責任感とか正義感にゆるいところがあり、それが逆に読者の共感と、でも最後は一発かましてくれるんだよな!的な期待感をもたせてくれる主人公として、個人的にはおおむね好感をもっていた。

 

しかしながら程心に関しては、全人類の命運を一手に担うようなナウシカのようなポジションに、しょっちゅうなるのに、決断の際にはその時の心の揺れだけで全人類の生き死にの決断を決めてしまう(ように感じる)。

 

第二部の主人公のルオ・ジー(男性)が相棒のシー・チアン(男性)と世界を救うために奔走し、第三部においては女性の主人公、程心が同じく女性の相棒である藍AAと世界を救うために奔走する構造には計画性を感じるが、その一方で世界が滅びそうな時にちょくちょく恋愛的な要素をはさまれる時があって、そのときは毎回、『いやいや、今そんな場合じゃないから!』と読みながら心のなかで思うこともしばしばありました。

 

 

〜おわりに

 

まあそんな訳で(どんなわけだ!)、色々とツッコミを入れたいところとか、やりすぎに感じる設定も沢山あったのですが、やはり『三体』は他に比類のないくらいスケールの大きい傑作であったことは間違いないと思います。

 

ストーリーのうねりというか、展開のダイナミックさには目を見張るものがありますし、登場人物も非常に魅力的です。

 

情報を開示するところと、あえて隠しておく部分のバランスも良く、読んでいて引き込まれてしまいます。

 

ただ、本当に知りたい部分。つまり異星人(本書においては三体人)についての描写はもう少し欲しかったような気がします。著者の力量であればそこを書ききることもできたと思いますし、そこを焦らされ続けるのは読みすすめるうちにだんだんとストレスになりました。

 

読後感としましては、久しぶりにすごいものをよんだなあという感じです。圧倒的なエンターテイメントだと思っていただければ間違いないでしょう。読んでみて損はないと思います。充実した読書体験を味わいたい方に是非おすすめいたします。

 

 

 

 

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