- Book Box - 本は宝箱。

SF・幻想文学多めの読書感想サイトです。基本好きな本しか感想書かないので、書いてある本はすべてオススメです。うまくいかない時ほど読書量がふえるという闇の傾向があります。それでも基本読書はたのしい。つれづれと書いていきます。

感想『わたしがいどんだ戦い1939』キンバリー・ブルベイカーブラッドリー著〜障害を持つ少女が、虐待や戦争に健気にも戦いを挑む。勇気という武器。ありったけそして唯一のもので。

 

1939年、第二次世界大戦のさなか。ロンドンに住む十歳の少女エイダは、母親から虐待を受けている。右足に障害を持って生まれ、彼女を人目にさらしたくない母親はエイダを監禁し、ことあるごとに暴力をふるう。そのためエイダは心に傷を負っているし、外の世界のことを何も知らない。<草>とか<木>とかそういったものも判らない。

 

彼女にはジェイミーという弟がいる。六歳。ジェイミーは健常者のため、外には出してもらえる。だがエイダと同様に暴力は振るわれている。十分な食事も与えらえていない。そのため外で盗みを働いている。

 

ある日エイダは、ジェイミーの通う学校で集団疎開があることを知る。ロンドンの爆撃が不安視されているからだ。そして母親はジェイミーだけを田舎にやろうとしている。<お前のみっともない足は誰も見たくないんだよ。>エイダは母の目を盗んで弟と一緒に疎開する決心をする。歩く練習を始める・・・。

 

 

本当に、幼い子供がひどい目にあっている物語は読んでいて辛いものがある。ひどい目に合わせている張本人が親である場合はなおのことだ。愛情を、自己を肯定する力を子供が持つためには何より親からの無条件の愛情が必要であるはずなのに。

 

 

幸いエイダとジェイミーは疎開先でスーザンという素晴らしい女性と生活を共にすることになる。親から愛情を示されたことのないエイダは、スーザンの親切さや優しさが理解できない。信じてはいけないような気がしている。そのため何かと憎まれ口をたたいたり、反抗したりする。

 

 

浅はかな私は<せっかく助けてもらってるのに何だその態度は>とちょっとカチンときたりもした。それは多分私が親の立場だからだ。私が仮に今10歳だったら、今まで与えられることのなかった愛情を信じることはできないだろうし、信じたい気持ちもあって、心の中に葛藤が生まれるだろう。そして試しにわがままを言ってみる。おそらくエイダからしたら、そういうことなのだろう。ジェイミーのように本当の幼さからくる素直な甘え方が出来ないのだ。

 

 

少しずつ心を開き始めたエイダだったが、疎開先であるはずの村にも戦争の影が忍び寄る。そしてあの人も・・・。

 

 

人生とはたたかいだ。人は誰しも日々たたかっている。裏がえって安易にすら聞こえるこのような言葉も、それが実際に自分の身に降りかかってくる瞬間にそれは突如ずっしりとした肉体を持ち出す。肉体であろうが心であろうが私たちは深刻なダメージを受けるだろう。悲しみが心を満たし、ぼろ雑巾のように捨てられるかもしれない。それでも、私たちはたたかってみた方が良いのだろう。己のギアを入れるのだ。そうすれば優しさに出会える。一歩ずつでも踏み出せる。エイダの物語は、私たちにそう思わせてくれる力強さがある。