- Book Box - 本は宝箱。

SF・幻想文学多めの読書感想サイトです。基本好きな本しか感想書かないので、書いてある本はすべてオススメです。うまくいかない時ほど読書量がふえるという闇の傾向があります。それでも基本読書はたのしい。つれづれと書いていきます。

2021-01-01から1年間の記事一覧

感想『プロジェクト・ヘイル・メアリー 上』アンディ・ウィアー著〜地球の終わりを救うため、全世界が協力してはなつ起死回生の一手プロジェクト・ヘイル・メアリー。たった一人でミッションをになうライランド・グレースは、記憶を失い自分の名前すら思い出せない。ビル・ゲイツ、オバマ元大統領推薦!Amazon年間ベストブック選出の本書はライアン・ゴズリング主演で映画化も決定している。

本書の著者アンディ・ウィアーは、初めて書いた小説『火星の人』が世界的なベストセラーとなり、2015年にはマット・デイモン主演で映画化(映画化名オデッセイ)もされ、こちらまた大ヒットとなっている。 本書『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はそん…

感想『うつむく青年』谷川俊太郎著〜読まず嫌いの俊太郎+〈k 。〉と嫉妬とお弁当。

<K。>の本って驚くほど内容がないの。読む価値なんてないよ。 君はたしかそんなことを言っていたね。 <K。>っておもしろいの?ってぼくが聞くと、きみはそう言って、いつもふくれっ面になるんだ。初めてきみの部屋に行って、あの完璧な仕上がりの本棚を…

感想『デカメロンプロジェクト〜パンデミックから生まれた29の物語』マーガレット・アトウッド他−著〜コロナVS文学。29人の小説家が未曾有のパンデミックを物語へと昇華させる。

二〇二〇年三月、あちこちの書店で売り切れになっていく十四世紀の本があった。ジョヴァンニ・ボッカチオの『デカメロン』、ペストが猛威を振るうフィレンツェから避難してきた男女の一団が互いに語って聞かせる入れ子状の物語集である。アメリカ合衆国にい…

感想『氷』アンナ・カヴァン著〜地球が氷におおわれてゆく終末の世界で、男は少女を追って狂気の旅を続ける。

世界が氷に覆われていく終末の世界で、男はそんなことにはお構いなく、ただひたすら少女を追いかけます。美しく、狂おしいヒリヒリした物語です。

感想『石蹴り遊び』フリオ・コルタサル著〜こうして、夢のようなパリでの彼らの放浪がはじまったのであった(本書より抜粋)。ラテンアメリカ文学史上最大の問題作。形而上的かつ思弁的な断章のタペストリーであり最高に意味不明で最高にお気に入りになる一冊。

本書には二通りの読み方があります。 一章から五十六章までで完結する順番どおりの読み方。 そしてもう一つは著者の指定した順に読み進めていくもの。 73章から読みはじめ、1章→2章→116→3→84→・・・・の順番に読んでいきます。 2段組み557ペー…

感想『密会』ウィリアム・トレヴァー著〜市井の人々の日々の暮らしを、その中で起こりうる感情を、ただありのままに書かせたとしたらウィリアム・トレヴァーに勝る作家はいないだろう。英語圏最高の短編作家と称されるのも納得の、味わい深い十二の作品群。

トレヴァーの小説は、物悲しいと同時に美しい。そして常に変わらず誠実である。 〜サンフランシスコ・クロニクル紙 ウィリアム・トレヴァーについて。 〜1928年アイルランドのコーク州にて生まれる。アイルランドの最高学府トリニティ・カレッジ・ダブリ…

感想『 龍の刻(新定番コナン全集6)』ロバート・E・ハワード著〜そうだ!!「「筋肉」」を鍛えよう!!!→小説を読むことで筋トレのモチベーションを挙げるには。

未来少年ではない。見ためは子ども、中身は大人の名探偵でもない。コナン三兄弟の長男凶悪マッチョ戦士のコナンである。 なんたら洋画劇場(TV・再放送)で何度となく見たアーノルド・シュワルツェネッガー主演『コナン・ザ・グレート』の原作。な、な、懐か…

感想『あなたの人生の物語』テッド・チャン著〜なんて素晴らしいタイトル。作品名だけで多分面白いだろうという予感に満ちていた。期待以上の面白さに反し、読後ふしぎに思ったのは心に残る深い哀しみ。そしてそれが美しい事。

あなたの人生の物語 『あなたの人生の物語』 突飛な状況に現実感を持たすため物理学?系の説明があまりに過多で、理解できない箇所も多かったのだが、その反面主人公が自分の娘に対して語りかける並行部分の文章の方は、埋め合わせのように情感に満ち満ちて…

感想『円』劉慈欣著〜『三体』三部作で、全世界2900万部以上を売り上げた著者の初の短編集。本書収録『円』はSF史に残る傑作短編。『アレクサンドルの蝶』は映像化されそうな程の感動作。『繊維』は超弩級パラレルものでクスッと笑えるユーモア作品。ハズレなしのプラチナ本です。  

〜劉慈欣について。 1963年山西省陽泉生まれ。発電所でエンジニアとして働くかたわら、SF短編を執筆。『三体』が2006年から中国のSF雑誌〈科幻世界〉に連載され、2008年に単行本として刊行されると、人気が爆発。アジア人作家として初めてSF最大…

感想『傷跡』ファン・ホセ・サエール著〜傷は人間を変質させる。彼らがこの世界で暮らすには、自らの異質を世界に無理に馴染ませていくしかない。

『傷跡』を読んでまず目を引かれるのは、いずれの登場人物もどこかしら【変】だということだ。彼らはみな常識的な規範から少しずつ(あるいはかなり)ズレている。このズレはなんの変哲もない日常的な光景を〈異化〉することによって、読者の脳裏に忘れがた…

本好きのあなたへオススメするAmazonプライムの無料体験。1000冊の本がタダで読めるうえ、読書時間まで確保出来る。小説原作の映画も沢山見れる!メリット、デメリットとその具体例書きます。

結論からいいますと、 無料体験どころか、月500円(年会費だと4,900円でお得)払ってもメリットいっぱいで、今までの生活が革命的に変わります。少しでも迷っているなら絶対やったほうがいいです。楽しみ方がいっぱい(読み放題だけじゃない)!そし…

感想『夜のみだらな鳥』ホセ・ドノソ著〜+カオス畸形児無秩序老婆+

冒頭。ブリヒダという老婆が死んだことについて、何の断りもなく大勢の人間が現れて、入れ替わり立ち代わり喋っている。 しばらくして、ベニータという名のシスターが、一人の男に自転車を運ぶよう指示をだす。ムディートと呼ばれているその男は聾唖者であり…

感想『一文物語集』飯田茂実著〜同僚たちと花見の席で大騒ぎをしている最中にふと、自分が前世でこの樹のしたへ誰かを殺して埋めたことを想い出した。(本文より抜粋)

1行から4行ほどの文章で、一つの物語が始まり、完結する。文字数が少ないので、つかわれる一文字一文字の硬度は高くなり、ひとつの文節が持つイメージ量は必然それなりの大きさが必要となってくる。足りない情報は、読者が勝手にイメージすることで埋め、…

感想『ランボー詩集』堀口大学訳。〜永遠と太陽をつがわせる文学の非道。

文学こそがすべてなのだ、最も偉大な、最も非道な、運命的なもの。そしてそうと知った以上、他になすべきことはなかった。 上記は、『悲しみよこんにちは』で19歳にして時の人となるフランソワーズ・サガンの言葉。 彼女はランボー詩集『イリュミナシオン』…

感想『一九八四年』ジョージ・オーウェル著〜蟻のウインストン・海のオブライエン

彼のやろうとしてしていること、それは日記を始めることだった。違法行為ではなかったが、しかしもしその行為が発覚すれば、死刑か最低二十五年の強制労働収容所送りになることはまず間違いない。~中略~ペン先をインクにつけた彼は一瞬たじろいだ。戦慄が…

感想『ユービック』フィリップKディック著~どんでん返しありの傑作SFサスペンス。無類の面白さ&無一文で世界を救う男ジョー・チップのハードボイルド(サイキック)ワンダーランド。

まず結論からいうと、相当面白かった。 著書の『アンドロイドは電気羊の夢をみるのか』を読んだときにも、そのあまりの面白さにぶっ飛んだ記憶があるのだが、今回はそれ以上にぶっ飛んだ。 主人公のジョー・チップは、不活性者(反超能力者)側の検査技師で、…

幻想文学の名手フリオ・コルタサルのおすすめ短編小説ランキング 10選。

幻想文学の名手フリオ・コルタサルのおすすめ短編小説ランキングです。個人的な選出ですが傑作ぞろいです。ぜひご覧ください。

感想『ナイフ投げ師』スティーブン・ミルハウザー著〜ミルハウザーを好きになることは、吸血鬼に噛まれることに似ていて、いったんその魔法に感染してしまったら、健康を取り戻すことは不可能に近い。(「訳者あとがき」より)

私のなかにある少ない言葉で、本書の魅力を伝えることは非常に困難だ。だけどもこのように素晴らしい本を縁あって読んで、それによって何かを感じることが出来たのだから、曲がりなりにもそのことを、文字として残すことに何かしら意味はあると思いたい。 ス…

感想『精霊たちの家』イザベル・アジェンデ著〜まず三つ。闇の中の光の痰壺。

まず三つ。 ①本書は金銭を目的として書かれたものではない。 ❷わたしたち、読者の身の安全は確保されている。 ③傑作である。 上記の①〜③について、順をおって記載していく。 ①に関しては著者の経歴をみて、本書を読めば明らかである。本書『精霊たちの家』は…

感想『騎士団長殺し』村上春樹著〜注意。村上春樹ファンの方は読まないでください。個人的な村上春樹氏に関するくだらない思い出話です。

※この文章は書評というより私個人の思い出話です。あらすじなど詳しく知りたい方は先行書評に素晴らしいものが多いのでそちらをお読みください。そして本文はあくまで個人的に感じた内容が書かれています。失礼なもの言いや、見当違いのことが書かれていても…

感想『風の歌を聴け』村上春樹著~人はそれぞれ自分だけの喪失を抱えている。何かを得るために、それを失ったのだとしても、失ったものはもう二度と戻ってくることはない。デビュー作にして傑作。21歳にして悟りきっている(僕)の、帰省先での一夏の物語。

あらすじ(本書より抜粋) 1970年の夏、海辺の街に帰省した(僕)は友人の(鼠)とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。 二人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、(僕)の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。 青…

感想『ホテルニューハンプシャー上・下』ジョン・アーヴィング著〜記憶の余命。おれアイオワ・ボブみたいな爺さんになるよ。

わたしの記憶は、誕生した瞬間にすでに晩年である。 まるでカゲロウ。哀れなものだ。 読んだ本にしても同じことで、 もうすでに本書の記憶は死のうとしている。 よってこのおぼろげな雑文は弔辞である。 ホテル・ニューハンプシャーと 生きとし生けるすべて…

感想『世界文学全集、失踪者・カッサンドラ』フランツ・カフカ著〜それは夢の世界であった。

青年の放浪と成長の物語といえば一見よくありそうな設定なのだが、カフカの書くそれはやっぱりなんだか異質なものとなっている。突如現れるそのひずみに虚をつかれ思わず二度読みしてしまう。 別段、文章じたいに変わった印象は受けない。とても簡素で読みや…

感想『かくも激しく甘きニカラグア』コルタサル著〜<永遠にあの6月を> 1979年6月ニカラグアにおけるサンディニスタ民族解放戦線の革命成功。後の復興と反革命勢力(コントラ)との闘いを老コルタサルがその両眼で見て、肌で感じて、紙に記したルポルタージュ。

中央アメリカの小国ニカラグアは1937年~1979年の間、アメリカの武力干渉を受けた国家警備隊を背景とした親米政権の独裁を受けていた。 ソモサ王朝と呼ばれたその政権はソモサ一家3代にわたる世襲政権でニカラグアの国内総生産の約半分を一家の系列企業で独…

感想『愛しのグレンダ』フリオ・コルタサル著〜コルタサル読みはじめの幸福。恋人が寝息をたてて眠るその横で、彼は〈自分にむけて〉物語を話しだす『自分に話す物語』。

優しいけれどちょっと馬鹿。 そんな男の語る倒錯したラブストーリーってやつがあるとしたら、それは個人的にとても好きなジャンルの小説だ。いちいち主人公の言うことが共感できて、こころがリズミカルに弾みだす感覚が味わえる。 本書『グラフィティ』『自…

感想『三十歳』インゲボルグ・バッハマン著〜私たちは全てを欺いている。そしてそれを社会から、人生から侮辱され続ける。

インゲボルク・バッハマン(1926~1973)。オーストリアの詩人、小説家。 1949年、23歳の時マルティン・ハイデッガーに関する論文で哲学の博士号を取得する。 学生時代パウル・ツェランと恋仲にあったことでも有名。二人の往復書簡は2008年に公表され、『バ…

感想『息吹』テッド・チャン著 ~著者は寡作の王にして当代最高のSF短編作家といえる。デビューから現在までの29年間に出した本は、わずか2冊。全部で18編の中短編しか発表していない。にも関わらずヒューゴー賞、ネビュラ賞、シオドア・スタージョン賞、星雲賞など世界の名だたるSF賞を合計20冠以上も獲得している。これはただ事ではない

17年前に刊行された第一作品集、『あなたの人生の物語』を読んだときも、衝撃を受けたのを覚えている。当時の印象は、とにかく知的だということだ。ひどく洗練されている。SFというジャンルは、出版された時点での社会のテクノロジーの進み具合によって、…

感想『北回帰線』ヘンリー・ミラー著〜<百色の語彙>原始の太陽は安宿に泊まる。〜アナイス・ニンによる序文は序文史に残る名文と言える。そしてその序文が示す通りの爆発的名作。

もしかしてこれは・・(ページをめくる手を止める) まさかね。う~ん・・(思い出したり考えを巡らす) いや、すごいけど・・・(3ページほどさかのぼる) いやいやいやいや・・・(深呼吸) やっぱりそうか。・・・(気づき) ああ、すげえ。・・・(おし…

感想『人間この劇的なるもの』福田恒存著〜人間はただ、生きることを欲しているのではない。現実の生活とはべつの次元に、意識の生活があるのだ。それに関わらずには、いかなる人生論も幸福論もなりたたぬ(本書より抜粋)。エッセイのように読みやすく、哲学書のように深い、私の人生の指南書。

A:福田恆存にあった?小林秀雄の跡取りは福田恆存という奴だ。これは偉いよ。 B:福田恆存という人はいっぺん何かの用で家へ来たことがある。あんたという人は実に邪魔になる人だと言っていた。 A:あいつは立派だな、小林秀雄から脱出するのを、もっぱら心…

感想『恐怖と愛の映画102』中野京子著 +ぼくたちのファム・ファタール+ ~一本につき2ページ半の文章と一枚の写真カットにより構成されるサクサク読める映画エッセイ。映画という媒体の素晴らしさを再認識させる明察、名文のオンパレード。

A 自分の人生の主役は自分だ。となると、他人の人生においては、誰もが脇役でしかない。 B 小説にしても映画にしても、敵役が強力でなければヒーローも輝かない まるで箴言のように印象的な書き出しでエッセイは始まる。 ほうっと思う間もなくあらすじの説明…