- Book Box - 本は宝箱。

SF・幻想文学多めの読書感想サイトです。基本好きな本しか感想書かないので、書いてある本はすべてオススメです。うまくいかない時ほど読書量がふえるという闇の傾向があります。それでも基本読書はたのしい。つれづれと書いていきます。

感想『或る少女の死まで〜他二篇』室生犀星著〜痕跡本のつなぐもの。リアルタイムにタイムリープする室生犀星と私と或る少女。

古本に、前の持ち主の書き込みのある本を、痕跡(こんせき)本というらしい。 店頭の100円均一で買ったこの本にも読後、巻末に書き込みのあることに気づいた。 ------------------------------------------------------------- 79 3/22 ← はとと西武にいっ…

感想『極北』ポール・セロー著〜終末文学の傑作。終わりつつある世界の中で人は残されたわずかばかりの食料を、快楽を、権力を奪いあう。そこに道徳が介入できる余地はわずかだ。だがその僅かな閉所こそが、善性であり、人間性というものだ。

ポール・セロー著『極北』。 無人の店、窓ガラスはすべて割れている。ビルはもぬけの殻。手入れもされず、そもそも誰いなくなって長い。世界的に都市は廃墟となっており、おそらく電気や水道などのインフラは通っていない。道路は荒れ、人はほとんど住んでい…

感想『コーヒーもう一杯』山川直人著〜あなたのそばで何があっても寄り添ってくれるものそれはそうコオヒイ。

コーヒーが好きだ。 好きがこうじてカフェで6年ほど勤めていたことがある。そう言うと人は、豆やら淹れ方についてあれこれと聞いてくるのだが、実はよく知らない。 私は舌が馬鹿なので、インスタントのコーヒーの方が豆から挽いたものより美味しく感じる。ミ…

感想『わたしがいどんだ戦い1939』キンバリー・ブルベイカーブラッドリー著〜障害を持つ少女が、虐待や戦争に健気にも戦いを挑む。勇気という武器。ありったけそして唯一のもので。

1939年、第二次世界大戦のさなか。ロンドンに住む十歳の少女エイダは、母親から虐待を受けている。右足に障害を持って生まれ、彼女を人目にさらしたくない母親はエイダを監禁し、ことあるごとに暴力をふるう。そのためエイダは心に傷を負っているし、外…

感想『黒い時計の旅』スティーブ・エリクソン著〜超弩級の読書体験がここにある!歴史if&パラレルワールドものの大傑作!!

歴史の源流に突如見たこともないほどのどす黒い血が流れだす。 人がそれほどの悪を、狂気を、死を もたらすことができるなど、いったい今まで ほんの少しでも ほんの少しでも 考えてみたことがあった者などいたのだろうか? 赤毛の大男 バニング・ジェーンラ…

感想『啄木歌集』久保田正文編〜〈歴史に残る無邪気・邪気〉一度でも 我に頭を 下げさせし 人みな死ねと いのりてしこと。

石川啄木の歌は他の誰とも似ていない。 誰でも共感できる体験を歌っているのに、誰にも真似することができないというのは実はとてつもなく凄いことだ。だけども啄木は別に偉い男ではない。むしろ駄目な男だ。だがそれを歌の世界では隠そうとしていない。そこ…

感想『モーターサイクルダイアリーズ』チェ・ゲバラ著〜人類史にのこるほどの革命家である彼が、もとは何処にでもいるような、夢見がちな、冒険好きな、向こう水な、一青年であったことに驚きを感じさせる一冊。本当にそこら辺にいそうな、少しばかり正義感の強いくらいの若者のユーモラスな青春旅日記。

モーターサイクル・ダイアリーズ (角川文庫) エルネスト・チェ・ゲバラが革命家となる前。23歳の時の貧乏旅行記だ。医学生だった彼と、親友であるアルベルトは 冒険と、日常からの逃避のため、オートバイによる北米旅行を思いつく。そのときに書かれた日記…

感想『スローターハウス5』カート・ヴォネガッドJr.〜第二次世界大戦ドレスデン爆撃の被害者でもある著者の半自伝的名SF。~「もしあの時に戻れたら」と人々はよく言うが、仮に戻れたとしても、戻るのが自分なら多分何も変わらない。

スローターハウス5 「われわれにしたって同じことさ、ピルグリムくん。この瞬間という琥珀に閉じ込められている。<なぜ>というものはないのだ。」 <時の試練>を乗り越えた本だ。 不朽の名作でもあるし、主人公の人生においてもそうだ。普通の人の千倍も…

感想『死の蔵書』ジョン・ダニング著〜本好きにはたまらない‼️古書収集家の刑事が主人公のハードボイルド&ミステリー!!私の脳内映画館では殿堂入りの大ヒット作!!

ミステリーを読むときは自分流の決めごとがある。 脳内で、映画館を開くか否かだ。 本読みの人は、誰しも一度はやっているとおもうのだが、要するに登場人物に配役をふりわけて、脳内のスクリーンで映像化するかどうかである。上映するかどうかの決め手は主…

感想『久生十蘭ジュラネスク珠玉傑作集』久生十蘭著〜幻想的で、硬質で、軽妙洒脱で、残酷。著者最大の問題作『美国横断鉄路』、構成の巧みさが光る『南部の鼻曲がり』、幻想の一つの極地『生霊』収録。

幻想的で、硬質で、軽妙洒脱で、残酷。 その作風は多岐にわたり、そのどれもが超高圧にして練磨されつくしている。自然描写は美しく、情感に溢れ、語りやセリフは弾むようなリズムがある。著者の持つ特異な経歴が遺憾なくその作品に反映され、他のどの作家と…

感想『悪魔の涎・追い求める男他八編』フリオ・コルタサル著〜短編小説でこれほどの傑作を私は他に知らない。日常から神話へ。孤高の傑作『南部高速道路』収録。

そして彼らはある時期になると、敵の男たちを狩りに出るが、それを花の戦いと呼んでいた。~『夜、あおむけにされて』より抜粋。 現実と異界が何の前触れもなしに入り乱れ交錯する。 第三者の目から俯瞰する現地報告のような無駄のない乾いた筆致が、妙なリ…

感想『パリ・ロンドン放浪記』ジョージ・オーウェル著〜全体主義的な管理社会を描いた傑作『1984年』で知られるジョージ・オーウェルのデビュー作。みずから浮浪者となり最底辺生活者の日々を生きいきと描き切った意欲作。

原題は『Down and Out in Paris and London』。文字通り直訳すると『パリ・ロンドン貧乏記』だとか『パリ・ロンドンどん底生活』などのほうが正しいようで、オーウェル自身の体験した底辺生活を悲喜こもごもに書き記したルポルタージュ(現地報告)のような…

感想『春にして君を離れ』アガサ・クリスティ著〜ミステリーの女王アガサ・クリスティーによる非ミステリーの傑作。+愛と哀しみのコペルニクス+

娘・バーバラの看病を終えた帰路の途中、主人公ジョーン・スカダモアは砂漠の中の寂れたレストハウス(鉄道宿泊所)で雨による足止めを食らってしまう。 アラフィフなのにしわの一本もなく、白いものの混じらない栗色の髪、愛嬌のある碧い瞳、ほっそりとした…

感想『石原吉郎詩文集』石原吉郎著〜+人が言葉をすてる時、クラリモンドが現れる。+シベリア抑留の被害者である著者が失った人間性を取り戻すために綴った詩の数々。それは悲痛でありながらも人間の気高さを想起させる。

敗戦後、石原吉郎はソ連の収容所で反ソ・スパイ行為の罪で重労働25年の判決を受ける。俗にいう<シベリア抑留>の被害者の一人だ。厳寒のシベリヤで粗末な衣服しか与えられず、足取りが遅れればすぐに死が待ち受ける死の労働を彼らは強いられた。 第二次世…

感想『十蘭レトリカ』久生十蘭著〜とにかく楽しい!明治生まれの作家の書いたモラルなし、セオリーなしのドタバタラブコメディ。チャラ男と性悪お嬢様と大陸女の破壊的恋物語『心理の谷』は必読に値する。他7編収録。

-本書収録『心理の谷』について- とにかく楽しい!の一言だ。久生十蘭の数多い短編のなかでも特にお気に入りの作品だ。 七日ほど前にJ・K・ユイスマンの『さかしま』を読んだあたりから、どうも鬱がちにどんより落ち込んでいたのだが、以前TVでオードリー…

感想『反絵、触れる、けだもののフラボン』福山知佐子著〜泥土の様な現象の海から、絵を、言葉を感応する。絵画写真映像批評エッセイストは絵を描くように文章を書く。

反絵、触れる、けだもののフラボン―見ることと絵画をめぐる断片 極度に詩的で哲学的なため、私にできるのは陶酔だけだ。 著者が鋭すぎる感性の持ち主のため、通常ABCDの順序で理解していくはずの世界の美しさや悲しさ、その他哲学的命題をABCをすっ飛ばしてD…

感想『青と緑』ヴァージニア・ウルフ著・西崎憲編・訳〜ヴァージニア・ウルフの入門書として最適。これはもうVRでは⁉️傑作『ボンド通りのダロウェイ夫人』。

『ボンド通りのダロウェイ夫人』 ※引用はすべて本作より抜粋したものです。 この作品は傑作だ。正直タイトルはなんの面白みもない。なんの期待もしていなかった。内容もほとんどない。アラフィフのダロウェイ夫人がただ手袋を買いに行くだけの話。〈つまらな…

感想『塚本邦雄』島内景二著〜『十二神将変』の復刊で話題の塚本邦雄。麻薬のような歌多数。錐・蠍・旱・雁・掏摸・檻・囮・森・橇・二人・鎖・百合・塵(左記短歌。読みは記事内にて)。

<少年時代、私は一通の手紙で彼と出会い、彼の「楽園」に案内されたのだった。塚本邦雄は、実際に逢うまでは実在の人物かどうか、私たち愛読者にさえ謎であった。〜本書より抜粋。 上記は塚本と15年の間友人とも師弟ともいえる関係にあった寺山修司の言葉。…

これで貴方もジュウラニアン。作家たちがこぞって絶賛する久生十蘭とは一体何ものなのか。変幻自在〈小説の魔術師〉久生十蘭のおすすめ短編小説11選。

その百科全書的知識、博覧強記の作風で〈小説の魔術師〉とまで言われた作家が、かつて日本にいました。久生十蘭という名前の作家です。 年季の入った読書家や作家の間に熱狂的なファンが多く、そんな彼らは〈ジュウラニアン〉と呼ばれています。 そんな久生…

感想『粋に暮らす言葉』杉浦日向子著〜かわいくもかわいそうな私たちよ。くだらないからおもしろおかしい生をありがとう。

杉浦日向子(すぎうら・ひなこ) 1958年11月30日、東京生まれ。1980年「ガロ」で漫画家としてデビュ―。江戸の風俗を生き生きと描くことに定評がある。1993年、漫画家引退を宣言。「隠居生活」をスタート。江戸風俗研究家として多くの作品を残す。2005年7月22…

感想『夜の果てへの旅 下』セリーヌ著〜エリ、エリ、レマ、サバクタニ!素晴らしきこの世界を怪物セリーヌと共にこき下ろす。

『夜の果てへの旅』は「明確な目的のある本」であって、その目的とは現代の人生の-いや、むしろ人生そのものの恐ろしさ、意味のなさに対して抗議することである。 上記はジョージ・オーウェルの評論『鯨の腹の中で』からの引用で、ある意味ではその通りであ…

感想『夜の果てへの旅 上』セリーヌ著〜最低が最高になる不思議。愛すべき愚痴の天才セリーヌの傑作長編小説。

悲劇的ピエロ気質でうっかり戦争に参加したことから、果てのない地獄を遍歴することになるバルダミュ。 彼の「語り」で物語は綴られる。戦争、放浪、病気、失恋。バルダミュの遍歴はまるで血の巡りの悪いオデュッセウスよろしく辛酸を嘗め尽くす。ところが不…

感想『悲しい本』マイケル・ローゼン作〜人は誰しも一人です。わたしの感情はわたしのもの。あなたの感情はあなたのもの。それは悲しみについても同じ。たった一人でこの本を開いてたった一人で味わってください。こころがホッと落ちつけるかもしれません。

大人が楽しめるとびきり上質の絵本です。悲しみと向き合う「私」の物語。 悲しみがとても大きいときがある。どこもかしこも悲しい。からだじゅうが、悲しい。 「私」は悲しみをだれかに話したい。たとえば私のママに。 「私」は悲しみをだれにも話したくない…

感想『ツァラトゥストラはこう言った』フリードリヒ・ ニーチェ著〜深夜高速とニイチェ。神は死に人間は生きるの巻。

どの国、どの時代にも起爆的役割をになう思想がある。美術や伝統、革命や戦争、果ては迫害など表出手段は様々だが、本書『ツァラトゥストラはこう言った』は幸福にも散文詩のような物語形式において発表された。 そのまま通読しても、正直よく判らない。攻略…

感想『プロジェクト・ヘイル・メアリー 上』アンディ・ウィアー著〜地球の終わりを救うため、全世界が協力してはなつ起死回生の一手プロジェクト・ヘイル・メアリー。たった一人でミッションをになうライランド・グレースは、記憶を失い自分の名前すら思い出せない。ビル・ゲイツ、オバマ元大統領推薦!Amazon年間ベストブック選出の本書はライアン・ゴズリング主演で映画化も決定している。

本書の著者アンディ・ウィアーは、初めて書いた小説『火星の人』が世界的なベストセラーとなり、2015年にはマット・デイモン主演で映画化(映画化名オデッセイ)もされ、こちらまた大ヒットとなっている。 本書『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はそん…

感想『うつむく青年』谷川俊太郎著〜読まず嫌いの俊太郎+〈k 。〉と嫉妬とお弁当。

<K。>の本って驚くほど内容がないの。読む価値なんてないよ。 君はたしかそんなことを言っていたね。 <K。>っておもしろいの?ってぼくが聞くと、きみはそう言って、いつもふくれっ面になるんだ。初めてきみの部屋に行って、あの完璧な仕上がりの本棚を…

感想『デカメロンプロジェクト〜パンデミックから生まれた29の物語』マーガレット・アトウッド他−著〜コロナVS文学。29人の小説家が未曾有のパンデミックを物語へと昇華させる。

二〇二〇年三月、あちこちの書店で売り切れになっていく十四世紀の本があった。ジョヴァンニ・ボッカチオの『デカメロン』、ペストが猛威を振るうフィレンツェから避難してきた男女の一団が互いに語って聞かせる入れ子状の物語集である。アメリカ合衆国にい…

感想『氷』アンナ・カヴァン著〜地球が氷におおわれてゆく終末の世界で、男は少女を追って狂気の旅を続ける。

世界が氷に覆われていく終末の世界で、男はそんなことにはお構いなく、ただひたすら少女を追いかけます。美しく、狂おしいヒリヒリした物語です。

感想『石蹴り遊び』フリオ・コルタサル著〜こうして、夢のようなパリでの彼らの放浪がはじまったのであった(本書より抜粋)。ラテンアメリカ文学史上最大の問題作。形而上的かつ思弁的な断章のタペストリーであり最高に意味不明で最高にお気に入りになる一冊。

本書には二通りの読み方があります。 一章から五十六章までで完結する順番どおりの読み方。 そしてもう一つは著者の指定した順に読み進めていくもの。 73章から読みはじめ、1章→2章→116→3→84→・・・・の順番に読んでいきます。 2段組み557ペー…

感想『密会』ウィリアム・トレヴァー著〜市井の人々の日々の暮らしを、その中で起こりうる感情を、ただありのままに書かせたとしたらウィリアム・トレヴァーに勝る作家はいないだろう。英語圏最高の短編作家と称されるのも納得の、味わい深い十二の作品群。

トレヴァーの小説は、物悲しいと同時に美しい。そして常に変わらず誠実である。 〜サンフランシスコ・クロニクル紙 ウィリアム・トレヴァーについて。 〜1928年アイルランドのコーク州にて生まれる。アイルランドの最高学府トリニティ・カレッジ・ダブリ…