古本に、前の持ち主の書き込みのある本を、痕跡(こんせき)本というらしい。 店頭の100円均一で買ったこの本にも読後、巻末に書き込みのあることに気づいた。 ------------------------------------------------------------- 79 3/22 ← はとと西武にいっ…
ポール・セロー著『極北』。 無人の店、窓ガラスはすべて割れている。ビルはもぬけの殻。手入れもされず、そもそも誰いなくなって長い。世界的に都市は廃墟となっており、おそらく電気や水道などのインフラは通っていない。道路は荒れ、人はほとんど住んでい…
コーヒーが好きだ。 好きがこうじてカフェで6年ほど勤めていたことがある。そう言うと人は、豆やら淹れ方についてあれこれと聞いてくるのだが、実はよく知らない。 私は舌が馬鹿なので、インスタントのコーヒーの方が豆から挽いたものより美味しく感じる。ミ…
1939年、第二次世界大戦のさなか。ロンドンに住む十歳の少女エイダは、母親から虐待を受けている。右足に障害を持って生まれ、彼女を人目にさらしたくない母親はエイダを監禁し、ことあるごとに暴力をふるう。そのためエイダは心に傷を負っているし、外…
歴史の源流に突如見たこともないほどのどす黒い血が流れだす。 人がそれほどの悪を、狂気を、死を もたらすことができるなど、いったい今まで ほんの少しでも ほんの少しでも 考えてみたことがあった者などいたのだろうか? 赤毛の大男 バニング・ジェーンラ…
石川啄木の歌は他の誰とも似ていない。 誰でも共感できる体験を歌っているのに、誰にも真似することができないというのは実はとてつもなく凄いことだ。だけども啄木は別に偉い男ではない。むしろ駄目な男だ。だがそれを歌の世界では隠そうとしていない。そこ…
モーターサイクル・ダイアリーズ (角川文庫) エルネスト・チェ・ゲバラが革命家となる前。23歳の時の貧乏旅行記だ。医学生だった彼と、親友であるアルベルトは 冒険と、日常からの逃避のため、オートバイによる北米旅行を思いつく。そのときに書かれた日記…
スローターハウス5 「われわれにしたって同じことさ、ピルグリムくん。この瞬間という琥珀に閉じ込められている。<なぜ>というものはないのだ。」 <時の試練>を乗り越えた本だ。 不朽の名作でもあるし、主人公の人生においてもそうだ。普通の人の千倍も…
ミステリーを読むときは自分流の決めごとがある。 脳内で、映画館を開くか否かだ。 本読みの人は、誰しも一度はやっているとおもうのだが、要するに登場人物に配役をふりわけて、脳内のスクリーンで映像化するかどうかである。上映するかどうかの決め手は主…
幻想的で、硬質で、軽妙洒脱で、残酷。 その作風は多岐にわたり、そのどれもが超高圧にして練磨されつくしている。自然描写は美しく、情感に溢れ、語りやセリフは弾むようなリズムがある。著者の持つ特異な経歴が遺憾なくその作品に反映され、他のどの作家と…
そして彼らはある時期になると、敵の男たちを狩りに出るが、それを花の戦いと呼んでいた。~『夜、あおむけにされて』より抜粋。 現実と異界が何の前触れもなしに入り乱れ交錯する。 第三者の目から俯瞰する現地報告のような無駄のない乾いた筆致が、妙なリ…
原題は『Down and Out in Paris and London』。文字通り直訳すると『パリ・ロンドン貧乏記』だとか『パリ・ロンドンどん底生活』などのほうが正しいようで、オーウェル自身の体験した底辺生活を悲喜こもごもに書き記したルポルタージュ(現地報告)のような…
娘・バーバラの看病を終えた帰路の途中、主人公ジョーン・スカダモアは砂漠の中の寂れたレストハウス(鉄道宿泊所)で雨による足止めを食らってしまう。 アラフィフなのにしわの一本もなく、白いものの混じらない栗色の髪、愛嬌のある碧い瞳、ほっそりとした…
敗戦後、石原吉郎はソ連の収容所で反ソ・スパイ行為の罪で重労働25年の判決を受ける。俗にいう<シベリア抑留>の被害者の一人だ。厳寒のシベリヤで粗末な衣服しか与えられず、足取りが遅れればすぐに死が待ち受ける死の労働を彼らは強いられた。 第二次世…
-本書収録『心理の谷』について- とにかく楽しい!の一言だ。久生十蘭の数多い短編のなかでも特にお気に入りの作品だ。 七日ほど前にJ・K・ユイスマンの『さかしま』を読んだあたりから、どうも鬱がちにどんより落ち込んでいたのだが、以前TVでオードリー…
反絵、触れる、けだもののフラボン―見ることと絵画をめぐる断片 極度に詩的で哲学的なため、私にできるのは陶酔だけだ。 著者が鋭すぎる感性の持ち主のため、通常ABCDの順序で理解していくはずの世界の美しさや悲しさ、その他哲学的命題をABCをすっ飛ばしてD…
『ボンド通りのダロウェイ夫人』 ※引用はすべて本作より抜粋したものです。 この作品は傑作だ。正直タイトルはなんの面白みもない。なんの期待もしていなかった。内容もほとんどない。アラフィフのダロウェイ夫人がただ手袋を買いに行くだけの話。〈つまらな…
<少年時代、私は一通の手紙で彼と出会い、彼の「楽園」に案内されたのだった。塚本邦雄は、実際に逢うまでは実在の人物かどうか、私たち愛読者にさえ謎であった。〜本書より抜粋。 上記は塚本と15年の間友人とも師弟ともいえる関係にあった寺山修司の言葉。…
その百科全書的知識、博覧強記の作風で〈小説の魔術師〉とまで言われた作家が、かつて日本にいました。久生十蘭という名前の作家です。 年季の入った読書家や作家の間に熱狂的なファンが多く、そんな彼らは〈ジュウラニアン〉と呼ばれています。 そんな久生…
杉浦日向子(すぎうら・ひなこ) 1958年11月30日、東京生まれ。1980年「ガロ」で漫画家としてデビュ―。江戸の風俗を生き生きと描くことに定評がある。1993年、漫画家引退を宣言。「隠居生活」をスタート。江戸風俗研究家として多くの作品を残す。2005年7月22…
『夜の果てへの旅』は「明確な目的のある本」であって、その目的とは現代の人生の-いや、むしろ人生そのものの恐ろしさ、意味のなさに対して抗議することである。 上記はジョージ・オーウェルの評論『鯨の腹の中で』からの引用で、ある意味ではその通りであ…
悲劇的ピエロ気質でうっかり戦争に参加したことから、果てのない地獄を遍歴することになるバルダミュ。 彼の「語り」で物語は綴られる。戦争、放浪、病気、失恋。バルダミュの遍歴はまるで血の巡りの悪いオデュッセウスよろしく辛酸を嘗め尽くす。ところが不…
大人が楽しめるとびきり上質の絵本です。悲しみと向き合う「私」の物語。 悲しみがとても大きいときがある。どこもかしこも悲しい。からだじゅうが、悲しい。 「私」は悲しみをだれかに話したい。たとえば私のママに。 「私」は悲しみをだれにも話したくない…
どの国、どの時代にも起爆的役割をになう思想がある。美術や伝統、革命や戦争、果ては迫害など表出手段は様々だが、本書『ツァラトゥストラはこう言った』は幸福にも散文詩のような物語形式において発表された。 そのまま通読しても、正直よく判らない。攻略…
本書の著者アンディ・ウィアーは、初めて書いた小説『火星の人』が世界的なベストセラーとなり、2015年にはマット・デイモン主演で映画化(映画化名オデッセイ)もされ、こちらまた大ヒットとなっている。 本書『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はそん…
<K。>の本って驚くほど内容がないの。読む価値なんてないよ。 君はたしかそんなことを言っていたね。 <K。>っておもしろいの?ってぼくが聞くと、きみはそう言って、いつもふくれっ面になるんだ。初めてきみの部屋に行って、あの完璧な仕上がりの本棚を…
二〇二〇年三月、あちこちの書店で売り切れになっていく十四世紀の本があった。ジョヴァンニ・ボッカチオの『デカメロン』、ペストが猛威を振るうフィレンツェから避難してきた男女の一団が互いに語って聞かせる入れ子状の物語集である。アメリカ合衆国にい…
世界が氷に覆われていく終末の世界で、男はそんなことにはお構いなく、ただひたすら少女を追いかけます。美しく、狂おしいヒリヒリした物語です。
本書には二通りの読み方があります。 一章から五十六章までで完結する順番どおりの読み方。 そしてもう一つは著者の指定した順に読み進めていくもの。 73章から読みはじめ、1章→2章→116→3→84→・・・・の順番に読んでいきます。 2段組み557ペー…
トレヴァーの小説は、物悲しいと同時に美しい。そして常に変わらず誠実である。 〜サンフランシスコ・クロニクル紙 ウィリアム・トレヴァーについて。 〜1928年アイルランドのコーク州にて生まれる。アイルランドの最高学府トリニティ・カレッジ・ダブリ…