- Book Box - 本は宝箱。

SF・幻想文学多めの読書感想サイトです。基本好きな本しか感想書かないので、書いてある本はすべてオススメです。うまくいかない時ほど読書量がふえるという闇の傾向があります。それでも基本読書はたのしい。つれづれと書いていきます。

感想『塚本邦雄』島内景二著〜『十二神将変』の復刊で話題の塚本邦雄。麻薬のような歌多数。錐・蠍・旱・雁・掏摸・檻・囮・森・橇・二人・鎖・百合・塵(左記短歌。読みは記事内にて)。

<少年時代、私は一通の手紙で彼と出会い、彼の「楽園」に案内されたのだった。塚本邦雄は、実際に逢うまでは実在の人物かどうか、私たち愛読者にさえ謎であった。〜本書より抜粋。

 

上記は塚本と15年の間友人とも師弟ともいえる関係にあった寺山修司の言葉。寺山はまた次のような言葉を残し、二人が組する前衛短歌の立ち位置を明確にしている。

 

短歌を始めてからの僕は、このジャンルを小市民の信仰的な日常のつぶやきから、もっと社会性を持つ文学表現にしたいと思い立った。作意の回復と様式の再認識が必要なのだ。〜本書より抜粋

 

与謝野晶子にしろ啄木にしろ短歌は歌人の人生から湧き出る泉とも血液ともいえる。歌人の傷口についた血で書かれたような短歌もあって、すべてが日常のつぶやきというわけではない。また、日常性があるからこそ普遍性を持ち合わせているのだが、確かに創造性の観点から考慮すれば、寺山のいうことも一理あるな、と思う。

 

さてさて、

 

タイトルの漢字の羅列。みなさんは読めましたでしょうか。私はさっぱり読めませんでした。実はこれも塚本邦雄の作品です。

 

漢字の読みは「きり・さそり・ひでり・かり・すり・おり・おとり・もり・そり・ふたり・くさり・ゆり・ちり」です。五・七・五・七・七のリズムに合わせて読んでみてください。短歌のリズムで心地良く読めることがわかるかと思います。

 

十三個の名詞がならべてあるだけなのに、頭の中に幻想的な物語が生まれてきます。先端の鋭さを感じさせる錐。毒を連想させる蠍。鋭さと毒性の末に人も死に、さらに旱(ひでり)が訪れて、貧困の末、雁(かり)を掏摸(すり)してつかまってしまう(檻)。深き森で橇(そり)にのって二人は逃げる。鎖につながれた二人は百合のようにはかない運命だ。塵のように散るだろう・・・。

 

塚本邦雄の短歌は難解なものが多く、個人的には少々レトリックが過ぎると感じるものもあります。ただ本書は、一首ごとに解説者の丁寧な説明が記載されています。これは非常にありがたく、塚本作品に触れるにあたって最良のきっかけとなり得ます。最後に印象に残った歌を4つ、本書よりご紹介します。ここまで読んでくださりありがとうございました。

 

燻製欄(くんせいらん)はるけき火事の香(か)にみちて母がわれ生みたることゆるす。

 

死に死に死に死にてをはりの明かるまむ青鱚(あおきす)の胎(はら)手のひらに透(す)く。

 

桐(きり)に藤(ふぢ)いづれむらさきふかければきみに逢ふ日の狩衣(かりぎぬ)は白。

 

掌(てのひら)の釘の孔(あな)もてみづからをイエスは支ふ風の雁來紅(かまつか)。