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感想『モーターサイクルダイアリーズ』チェ・ゲバラ著〜人類史にのこるほどの革命家である彼が、もとは何処にでもいるような、夢見がちな、冒険好きな、向こう水な、一青年であったことに驚きを感じさせる一冊。本当にそこら辺にいそうな、少しばかり正義感の強いくらいの若者のユーモラスな青春旅日記。


モーターサイクル・ダイアリーズ (角川文庫)

 

エルネスト・チェ・ゲバラが革命家となる前。23歳の時の貧乏旅行記だ。医学生だった彼と、親友であるアルベルトは 冒険と、日常からの逃避のため、オートバイによる北米旅行を思いつく。そのときに書かれた日記をのちにゲバラ本人がものがたり風に書き改めたのが本書。

 

これは人を感心させるような偉業の話でもなければ、単なる「ちょっぴり皮肉な物語」でもないし、少なくともそれは僕の望むところではない。これは、願望が一致し夢が一つになったことで、ある一定の期間を共有することになったそのときの、二つの人生のひとかけらである。人間というものは、一生のうちの九か月間の間に、最も高尚な哲学的思索から、スープ一皿を求めるさもしい熱情にいたるまで、実にたくさんのことに思いを馳せられるもので、結局のところすべてはお腹の空き具合次第なのだ。

 

私は本書より先に、戸井十月著『チェ・ゲバラの遥かなる旅』を読んでいて、後年の彼やフィデル・カストロの凄さに圧倒されていたので、ゲバラ自身が上記のようなユーモアのある文章を書くのも意外だったし、本書を読んで彼が本当に普通の若者であったことに新鮮な驚きを感じた。・・・ところで、かれらが用意したオートバイだが実はとんでもなくボロくて、二人は死ななかったのが不思議なくらい何度もバイクから放り出されている。

 

かなりのスピードで走っている状態でやや急なカーブでブレーキをかけた時、リア・ブレーキの蝶ナットが吹っ飛んだ。カーブの先に一頭の牛の頭が、続いてたくさんの頭が現れた。僕がハンド・ブレーキをかけると、できの悪いこいつもこれまた壊れた。

 

バイクに乗ったアルベルトの後ろから、僕はアニメの映画みたいに、文字通り飛び出した。一つ一つのカーブが地獄のようだった。ブレーキ、クラッチ、一速、二速、お母さああああん。

 

ポデローサ(強力という意味)2号というこのバイクは、物語が半分もいかないうちに再起不能となっていて、中盤から旅の終わりまでは徒歩やヒッチハイク、密航で通している。だけど印象としては、どうしようもなく<モーターサイクル>であって、それ以外には考えられない。装丁も本書の雰囲気を過不足なく現していて素晴らしい。『モーターサイクルダイアリーズ』は偉大なる革命家の残したなんでもない青春の旅の記録で、金のない旅先でのパンのうまさ、その土地にくらす人びと、金をたかる、流れる景色、不安、わくわく、美しい自然、親切にもつきまとう蚊、何事にも打ち勝つ眠気、そんな、物語。ゲバラの娘、アレイダ・ゲバラ・マルチによるまえがきが、またイイ。

 


モーターサイクル・ダイアリーズ (角川文庫)

 

映画もまたイイ↓