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感想『反絵、触れる、けだもののフラボン』福山知佐子著〜泥土の様な現象の海から、絵を、言葉を感応する。絵画写真映像批評エッセイストは絵を描くように文章を書く。


反絵、触れる、けだもののフラボン―見ることと絵画をめぐる断片

 

極度に詩的で哲学的なため、私にできるのは陶酔だけだ。

 

著者が鋭すぎる感性の持ち主のため、通常ABCDの順序で理解していくはずの世界の美しさや悲しさ、その他哲学的命題をABCをすっ飛ばしてDだけ感得して直観的に理解して書いてしまう。そのため、文章は論理的であるにもかかわらず、なかなか理解しがたい。感性の哲学、そして絵画論なのだ。

 

本書の著者、福山知佐子は画家であるが、本書のように絵画論も書けばエッセイ・批評も書く。亡き師毛利武彦との交感を記した文章は感動的だ。

 

誰かが死んだとき、そのとき、その人の眼の中の絵は、長い時間の記憶はどこへいくのだろう。誰かの眼の中の記憶を、誰かは想像しようとしていた。それは、そのひとが生きているときも、その人に触れられない現在もかわらない。

 

著者は「世界は絵よりも、より絵である。」と言う。「絵」は人間の側にではなく、世界の方にあるのではないかと。

 

絵のために私が世界をリストラクション(再構築)するのではなく、世界の予測不可能性によって、絶えず私がリストラクションされるのだ。

 

枯草の塊、しな垂れる茎の軌跡、苔、黴の模様、昆虫の足の動き、剥落、ずれ、不純物、白濁、薄闇、窪み、隈、錆びた杭、雨上がりの地面の斑、爆発、破裂、放棄、水蒸気、偶然の滴り、不揃い、混じる匂い、乱雑の奇跡、

 

ほんのわずかな獣じみた匂い、目を閉じて空中にたどる幽かなかすれの糸に引き戻され、私の『絵』が強烈に再来する。そのとき、「反絵」が『絵』となり「絵」が『反絵』となる。

 

著者の筆にかかると、故人だろうとなかろうと、とても同じ人間とは思えない。神にあらがう阿修羅のようで世界に対して命を刃に抜身の戦さを繰り広げている。彼女の眼は類いまれなく優れている。彼女にかかれば世界は絵となり、人はその最奥を隠すことは出来ない。

 


反絵、触れる、けだもののフラボン―見ることと絵画をめぐる断片