- Book Box - 本は宝箱。

SF・幻想文学多めの読書感想サイトです。基本好きな本しか感想書かないので、書いてある本はすべてオススメです。うまくいかない時ほど読書量がふえるという闇の傾向があります。それでも基本読書はたのしい。つれづれと書いていきます。

感想『うつむく青年』谷川俊太郎著〜読まず嫌いの俊太郎+〈k 。〉と嫉妬とお弁当。

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<K。>の本って驚くほど内容がないの。読む価値なんてないよ。

 

君はたしかそんなことを言っていたね。

 

<K。>っておもしろいの?ってぼくが聞くと、きみはそう言って、いつもふくれっ面になるんだ。初めてきみの部屋に行って、あの完璧な仕上がりの本棚を見た時、なんだか神聖な気持ちになったんだけど、彼の全集があるもんだから、ぼくはてっきり好きだと思って聞いてみたんだけど・・・。

 

嫌いって言っときながら全集をもってるなんて、おかしなひとだなと僕はおもったんだ。けど、よく考えたら僕だって、嫌いだったはずの谷川俊太郎の詩集を何冊も持ってる。しかも最近はちょっと・・・・・・・いや・・・そんなことは・・・どうでも・・い、いいんだ。

 

きみと<K。>の不思議な関係性がぼくにはすごく謎なんだけど、そのミステリイも第三者の存在の可能性を考えてしまうと、ぼくはなんだかとっても不安になる。・・・パラパラパラ・・・・・さて、それでは本書62ページをお開きください。はい、どうぞ。

 

(嫉妬 五つの感情・その四)

 

 

私は王となってあなたという領土の 

 

小川や町はずれのすみずみまで

 

あまねく支配したいと願うのだが 

 

実を言うとまだ地図一枚ももってはいない

 

 

通いなれた道を歩いているつもりで 

 

突然見た事もない美しい牧場に出たりすると 

 

私は凍ったように立ちすくみ 

 

むしろそこが砂漠である事を 

 

心ひそかに望んだりもするのだ

 

 

支配はおろか探検すら果たせずに 

 

私はあなたの森に踏み迷い  

 

やがては野垂れ死にするのかもしれぬが

 

そんな私のために歌われるあなたの挽歌こそ

 

他の誰の耳にもとどかぬものであってほしい

 

大阪の万博記念公園で、きみの作ってくれたお弁当を食べながら、

ぼくは〈k。〉のことを考える。

そして、谷川俊太郎おべんとうの歌って言う詩を思い出したんだ。

 

魔法瓶のお茶が   

 

ちっともさめていないことに   

 

何度でも感激するのだ

 

 

白いごはんの中から 

 

梅干しが顔を出す瞬間に  

 

いつもスリルを覚えるのだ

 

 

ゆで卵のからが   

 

きれいにくるりとむけると   

 

手柄でもたてた気になるのだ

 

 

(大切な薬みたいにつつんである塩)

 

 

キャラメルなどというものを 

 

口に含むのを許されるのは 

 

いい年をした大人にとって 

 

こんな時だけ  

 

奇跡の時  

 

おべんとうの時

 

 

空が青いということに   

 

突然馬鹿か天才のように   

 

夢中になってしまうのだ

 

 

そしてびっくりする   

 

自分がどんな小さなものに

 

幸せを感じているかを知って 

 

 

そして少し腹を立てる

 

あんまり簡単に 

 

幸せになった自分に

 

 

ーーあそこでは

 

 

そうあの廃坑になった町では 

 

おべんとうのある子は  

 

おべんとうを食べていた  

 

そして おべんとうのない子は

 

風の強い校庭で 

 

黙ってぶらんこにのっていた 

 

その短い記事と写真を

 

何故こんなにはっきり   

 

記憶しているのだろう   

 

 

どうすることもできぬ

 

くやしさが  

 

泉のように湧き上がる 

 

 

どうやってわかちあうのか  

 

不幸を

 

 

手の中の一個のおむすびは

 

地球のように

 

重い

 

その後、きみと結婚してから5年が経つ。

子育てが少し落ちついてきた今年の4月頃から、このブログをはじめた。

 

「そろそろ〈k。〉を読んでみようかな。」

 

・・・沈黙。

そして目を大きく開く。

どうやら驚いているらしい。

 

「今の時代に〈k。〉を読むの!?ただの小洒落た文字の羅列ですよ。」

 

と腹をかかえて笑われた。

 

今朝、本棚を見てみたら、全部で47冊〈k。〉の本があった。

 

増えてる。