感想『氷』アンナ・カヴァン著〜地球が氷におおわれてゆく終末の世界で、男は少女を追って狂気の旅を続ける。
地球が氷に飲まれつつある。
すでにいくつもの国が滅んでいるのだ。
人類の行きつく先は目に見えている。
だがそれでも、それだからこそ人々は戦争をやめない。
限られた土地を、資源を、食料を奪うため、自己の命を少しでも永らえるため。
私はある男のもとを訪れる。
いや、そうではない。
〈長官〉と呼ばれるその男のもとにいる、アルビノの少女のもとを訪れたのだ。
その豊かな銀色ノ髪、そして雪よりも少しだけ白くないほどに白いその肌。
少女は痛々しく、折れそうな肢体を持ち、その心は常に痛めつけられている。
犠牲者としての人生を宿命づけられているかのようなその少女を
私は守りたく、愛しく思っている。
一度は結婚まで考えたその少女は、今は私が訪れた長官の妻となっている。
私は少女がいなければ生きていくことはできない。
私は少女がいなければ生きていくことはできない。
長官と少女とインドリの話などをしながら打ち解けた雰囲気となる。
私は数日間を二人とともに過ごした。少女は常に私を避けていたが・・・。
私は少女がいなければ・・・・。
私は少女がいなければ・・・・。
少女が突然家を出た、と長官が知らせてきた。
長官は言う。清々していると。彼女の神経症には我慢がならなかったと。
私は思う。何としても少女を探し出さなければならない。
私は仕事をすべて投げ出す。そして少女の行方を追い始める。
氷から逃げ、少女を追う。地獄が始まった。
私は金をばらまき、長官の情報を買う。なぜならば長官も少女を追っているから。
氷のような眼をもつ長官は、傲慢で頑強で有能で冷酷。
彼もまた、少女を追い求め、拉致し、侮辱し、凌辱する。
少女は言う。
私と長官はぐるであると。共犯なのだと。
少女は、命がけの地球横断を敢行しつづける私をこう言って蔑む。
私もまた憤り、少女を怒鳴る。少女は軽蔑した目を私に向ける。
私は少女との縁を切りたい。
しかし宿命的に切ることが叶わない。
そのような因果律のもとに生まれてしまった。
金も命も何もかも、少女に会いたいと思う気持ちの前ではすべてが無になる。
私は身一つで船に飛び乗る、敵国に乗り込む、ゲリラになる、人を撥ねる、
何一ついとわない。少女に会えるのなら。ひと目でも会えるのなら・・・。
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全てが氷に飲まれる前に。
氷 (ちくま文庫)