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感想『円』劉慈欣著〜『三体』三部作で、全世界2900万部以上を売り上げた著者の初の短編集。本書収録『円』はSF史に残る傑作短編。『アレクサンドルの蝶』は映像化されそうな程の感動作。『繊維』は超弩級パラレルものでクスッと笑えるユーモア作品。ハズレなしのプラチナ本です。  

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〜劉慈欣について。

1963年山西省陽泉生まれ。発電所でエンジニアとして働くかたわら、SF短編を執筆。『三体』が2006年から中国のSF雑誌〈科幻世界〉に連載され、2008年に単行本として刊行されると、人気が爆発。アジア人作家として初めてSF最大の賞であるヒューゴー賞を受賞。『三体』三部作は全世界で2900万部以上を売り上げた。日本でも『三体』三部作は合計58万部を売り上げる大ヒットシリーズとなった。今もっとも注目すべき作家のひとりである。〜本書より抜粋。

 

 

めっさ面白かった。

 

ひさしぶりに発売日当日に本を購入した。三体』三部作でそれはそれは度肝を抜かれたのだけれど、本作も短編集ながら超弩級のスケールの大きさ、そして緻密さが随所に炸裂している。『三体』を読んでみたいけれど長すぎるとためらわれる方はまず本書『円』を読んでほしい。かならず良質の読書体験が得られます。深みもありながら、しっかりとエンターテインメントもありとても楽しめる傑作短編集です。以下に気になった収録作品のあらすじ、感想などをご紹介します。

 

『鯨歌』

 

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ワーナーおじさんは自分の船の船先に立ち、大西洋の静かな大海原を眺めながら考え込んでいた。彼には考え込む習慣がほとんどない。いつだって、考えるまでもなくどう行動すればいいかわかっていたし、実際これまでずっと、考えることなく行動してきた。しかし今回ばかりは、たしかに厄介な事態に陥っていた。

 

日本の読者は、規格外かつ超弩級スケールの『三体』で劉慈欣を知った方が多いと思います。私もそうでした。本書冒頭の『鯨歌』を読むと、著者はこんな物語も紡げるのかと嬉しい驚きを覚えます。これから著者とは長い付き合いになりそうだな、と快い友人と知り合えたような気持ちを抱きます。非人道的なタイプの物語の内容と反して、著者に対する信頼感が増す、良い印象を受ける好短編です。

 

『繊維』

 

10ページ弱の非常に短い作品です。一種のパラレルワールドものですが、そこは劉慈欣らしく超絶スケール、かつそこはかとないユーモアが随所に炸裂しています。登場人物たちのドタバタと噛み合わない感じが非常に面白く、思わずクスッと笑ってしまいます。ちょっとした笑いを提供してくれる物語は個人的に大好物です。

 

『カオスの蝶』

 

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バタフライ・エフェクトという言葉をご存知でしょうか。

 

力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化がなかった場合とはその後の系の状態が大きく異なってしまうという現象。

 

蝶が羽ばたく程度の非常に小さな撹乱でも遠くの場所の気象に影響を与えるか?という問いかけ。

〜ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?

ウィキペディアより参照)

 

物語は、戦時下であるユーゴスラビアの首都ベオグラードにある小児病棟。そこに爆発音が響く。戦争が始まったのだ。

 

ビルの中で地下へ向かう人々の群れの中に、本編の主人公アレクサンドルがいた。彼は友人のライヒと共にただ2人屋上で空を見上げていた。

 

妻と娘と帰宅したアレクサンドルは、自分がこれから戦火のベオグラードに2人を残して長い間出かけなければならない旨を伝える。私も連れて行ってという娘に彼はこう答える。

 

「それはできないんだ、シュガー。パパはね、みんなの土地に爆弾が落ちてこないようにするために出かけるんだ。カーチャを連れていくにはちょっと遠すぎる。それにパパだって、自分がどこに行くのかまだ知らないんだよ」

 

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劉慈欣は、実際にあった社会的事件をベースにしてSF的物語を展開していくのが非常にうまい作家だ。本編でもその特徴は顕著だ。読者はその事件を知らなければ知ろうとするし、知っていたのならばその内容を検証するつもりで、あるいはその事件の解決を物語の中に求めようとして真剣に読み始めることとなる。家族を守るためとはいえ、戦時中の街に病気の娘と妻をのこし、世界中を駆けずりまわるアレクサンドルの姿は、もどかしくもあり、また感動的でもある。

 

『円』

 

SF史に残る傑作と言っても過言ではないでしょう。それくらい面白く、味わいがあります。本編の内容は『三体』の中でもVRゲーム三体の一エピソードとして登場します。本編ではそのエピソードをより純度を高め昇華させたような作品です。あらすじはネタバレをさけて記しませんが、〈秦の始皇帝〉、〈人力コンピューター〉、〈円周率〉このへんが鍵となります。本編は第50回星雲賞海外短編部門を受賞しています。

 

まとめ

 

今回ご紹介した4作以外にも秀作が目白押しです。じつに様々なテイストを味わえるラインナップで、SF好きでも、そうでない方でも絶対に読んだほうがいい作品と言えるでしょう。

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 

劉慈欣の超ヒット作『三体』三部作の書評はこちら↓

 

 

 

 

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『円』を読んでいると、その世界観から『三国志』を思いだします。↓

 

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