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感想『世界文学全集、失踪者・カッサンドラ』フランツ・カフカ著〜それは夢の世界であった。

青年の放浪と成長の物語といえば一見よくありそうな設定なのだが、カフカの書くそれはやっぱりなんだか異質なものとなっている。突如現れるそのひずみに虚をつかれ思わず二度読みしてしまう。

別段、文章じたいに変わった印象は受けない。とても簡素で読みやすい。飾り立てた感じはないし、気どりも、優雅さも、斬新さも、別にない。多分。

おかしい。でもやっぱり変だ。カールの偏った正義感とか、賢いのか馬鹿なのかよくわからないところは、若さゆえのバランスの悪さと理解することはできるとしても。

物語の冒頭、16歳のカール・ロスマンは移民船に乗ってニューヨークへやってくる。年上の女から誘惑され関係を持ってしまったがゆえ、世間体から家を追いだされた。

前向きで、粘り強く、勤勉で、謙虚なカール。その場その場で自分なりにとっさにも物事を分析し、推測して、良いと思われる行動をとる。勇気もあって決断力もある。でもその結果選びとった行動がびっくりするくらい的はずれだったり、ありえないような現実がひょっこりと顔をだして、その美徳をことごとく空回りさせている。

未完に終わったカフカの『失踪者』は、読んだが最後、私たちの片割れである心もあてどのないカールの旅の永遠のみちづれとさせる。だけれど、この違和感に満ちた小説世界はなんとなく身に覚えがあって、先日ハッと気づいたらそれは夢の世界であった。