- Book Box - 本は宝箱。

SF・幻想文学多めの読書感想サイトです。基本好きな本しか感想書かないので、書いてある本はすべてオススメです。うまくいかない時ほど読書量がふえるという闇の傾向があります。それでも基本読書はたのしい。つれづれと書いていきます。

感想『愛しのグレンダ』フリオ・コルタサル著〜コルタサル読みはじめの幸福。恋人が寝息をたてて眠るその横で、彼は〈自分にむけて〉物語を話しだす『自分に話す物語』。

 

優しいけれどちょっと馬鹿。

 

そんな男の語る倒錯したラブストーリーってやつがあるとしたら、それは個人的にとても好きなジャンルの小説だ。いちいち主人公の言うことが共感できて、こころがリズミカルに弾みだす感覚が味わえる。

 

本書『グラフィティ』『自分に話す物語』の二編にそんな雰囲気を感じ取り、ウキウキと読み始めたが、出だしに反して物語は二転三転し、幻想、ミステリ、暴力、政治、ホラー、ドキュメント・・etc、と一筋縄ではいかないコルタサルの魔術的秀作短編集であった。

 

まさに再読ありきの味わい深さ。特にコルタサルの作品は書き出しに良いものが多く、本書では『自分に話す物語』の<それ↓ >がわたしは好きだ。引用して終わりとします。ありがとうございました。

ぼくが自分にあれこれ物語を話すのは、独りきりで寝て、ベッドがいつもより大きく冷たく感じられるときだ、でもニアガラが隣にいて、まるで彼女も自分に物語を話しているみたいに楽しげに何かをつぶやきながら眠っているときにも、ぼくは自分に物語を話す。彼女を起こして彼女の物語(たんなる寝言なのだから物語のはずはない)がどんなものなのか教えてほしいと思うことも時にはあるけれど、ニアガラは決まってくたくたに疲れて仕事から戻ってくるから、匂いのいい、ぶつぶつ言っている貝殻の中に閉じこもり、満ち足りた様子で眠り込んだばかりの彼女を起こすのは、正しいことでも立派なことでもないだろう、だから彼女を寝かせたまま、彼女が夜勤に出てしまうと突然大きくなるあのベッドに独りで寝る日のように、ぼくは自分に話をする。ぼくが自分に話す物語の内容は何でもありだけれど、ほとんどいつも主人公はぼくで・・・・・