- Book Box - 本は宝箱。

SF・幻想文学多めの読書感想サイトです。基本好きな本しか感想書かないので、書いてある本はすべてオススメです。うまくいかない時ほど読書量がふえるという闇の傾向があります。それでも基本読書はたのしい。つれづれと書いていきます。

感想『罪と罰(1・2・3)』ドストエフスキー著〜人という音楽が爆音で流れている。

ドストエフスキーは『カラマーゾフの兄弟』が最も有名だが、個人的には本書『罪と罰』の方が圧倒的に面白い。それはもう、小説史上NO5には入るであろうと、独断で太鼓判を押したくなる面白さだ。

 

そもそも長い小説だが、ドスト特有の冗長さが本書にはない。確か1巻の終わりごろ、主人公のラスコーリニコフが、ちょっと頭のいかれた犯罪論をぶちまけ、あれよあれよと加速度的に面白くなる。

 

外から見ると、しかめつらでダンマリなこの青年は、内面では非常に愚痴っぽく陰鬱で、おしゃべりだ。既存の道徳や神の存在を信用しないため、自分ひとりの利益や価値においてのみ、是非を決定していく。

 

そんなラスコーリニコフ金目当てで、ある老婆を殺害する。天性の知性と気概で罪を逃れようとするのだが・・・。 

 

『月と六ペンス』の著者、サマセット・モームは『読書案内-世界文学・岩波文庫』の中で、『罪と罰』の登場人物たちを~自然災害がそのまま人として具現化したような~と表している。(手元にありませんのでニュアンスです。)

 

ドスト自身の過敏すぎる神経性が登場する人物たちにそれぞれ反映されている。彼らは見ていられないほど堕落していたり、信じられないほど過剰に友情に厚かったり、大蛇のように執拗で力強かったり、悪魔のように狡猾で、キリストのように聖人であったりする。それはまるで、彼ら自身がまるで毛色の異なる音楽の化身であるかのようだ。

 

物語半ばまで、とんでもない変人たちに囲まれながらもラスコーリニコフの変人性もまた揺らぐところを全く見せず、冒頭ただの暗い青年と思っていた彼の奏でる音楽が非常に力のあるものだと気づき始める。石の都サンクトペテルブルクは、強大な意志たちのぶつかり合う巨大なコンサートホール、ライブハウスでもあるのだ。ジャズもロックも演歌もクラシックもそこでは各々勝手に爆音で演奏し、歌われる。

 

ラスコーリニコフの音楽は、ある音色に出会い変わってゆく。その結末は清らかでカタルシスを感じる。

 

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