- Book Box - 本は宝箱。

SF・幻想文学多めの読書感想サイトです。基本好きな本しか感想書かないので、書いてある本はすべてオススメです。うまくいかない時ほど読書量がふえるという闇の傾向があります。それでも基本読書はたのしい。つれづれと書いていきます。

2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

感想『悪魔の涎・追い求める男他八編』フリオ・コルタサル著〜短編小説でこれほどの傑作を私は他に知らない。日常から神話へ。孤高の傑作『南部高速道路』収録。

そして彼らはある時期になると、敵の男たちを狩りに出るが、それを花の戦いと呼んでいた。~『夜、あおむけにされて』より抜粋。 現実と異界が何の前触れもなしに入り乱れ交錯する。 第三者の目から俯瞰する現地報告のような無駄のない乾いた筆致が、妙なリ…

感想『パリ・ロンドン放浪記』ジョージ・オーウェル著〜全体主義的な管理社会を描いた傑作『1984年』で知られるジョージ・オーウェルのデビュー作。みずから浮浪者となり最底辺生活者の日々を生きいきと描き切った意欲作。

原題は『Down and Out in Paris and London』。文字通り直訳すると『パリ・ロンドン貧乏記』だとか『パリ・ロンドンどん底生活』などのほうが正しいようで、オーウェル自身の体験した底辺生活を悲喜こもごもに書き記したルポルタージュ(現地報告)のような…

感想『春にして君を離れ』アガサ・クリスティ著〜ミステリーの女王アガサ・クリスティーによる非ミステリーの傑作。+愛と哀しみのコペルニクス+

娘・バーバラの看病を終えた帰路の途中、主人公ジョーン・スカダモアは砂漠の中の寂れたレストハウス(鉄道宿泊所)で雨による足止めを食らってしまう。 アラフィフなのにしわの一本もなく、白いものの混じらない栗色の髪、愛嬌のある碧い瞳、ほっそりとした…

感想『石原吉郎詩文集』石原吉郎著〜+人が言葉をすてる時、クラリモンドが現れる。+シベリア抑留の被害者である著者が失った人間性を取り戻すために綴った詩の数々。それは悲痛でありながらも人間の気高さを想起させる。

敗戦後、石原吉郎はソ連の収容所で反ソ・スパイ行為の罪で重労働25年の判決を受ける。俗にいう<シベリア抑留>の被害者の一人だ。厳寒のシベリヤで粗末な衣服しか与えられず、足取りが遅れればすぐに死が待ち受ける死の労働を彼らは強いられた。 第二次世…

感想『十蘭レトリカ』久生十蘭著〜とにかく楽しい!明治生まれの作家の書いたモラルなし、セオリーなしのドタバタラブコメディ。チャラ男と性悪お嬢様と大陸女の破壊的恋物語『心理の谷』は必読に値する。他7編収録。

-本書収録『心理の谷』について- とにかく楽しい!の一言だ。久生十蘭の数多い短編のなかでも特にお気に入りの作品だ。 七日ほど前にJ・K・ユイスマンの『さかしま』を読んだあたりから、どうも鬱がちにどんより落ち込んでいたのだが、以前TVでオードリー…

感想『反絵、触れる、けだもののフラボン』福山知佐子著〜泥土の様な現象の海から、絵を、言葉を感応する。絵画写真映像批評エッセイストは絵を描くように文章を書く。

反絵、触れる、けだもののフラボン―見ることと絵画をめぐる断片 極度に詩的で哲学的なため、私にできるのは陶酔だけだ。 著者が鋭すぎる感性の持ち主のため、通常ABCDの順序で理解していくはずの世界の美しさや悲しさ、その他哲学的命題をABCをすっ飛ばしてD…