- Book Box - 本は宝箱。

SF・幻想文学多めの読書感想サイトです。基本好きな本しか感想書かないので、書いてある本はすべてオススメです。うまくいかない時ほど読書量がふえるという闇の傾向があります。それでも基本読書はたのしい。つれづれと書いていきます。

2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

感想『世界文学全集、失踪者・カッサンドラ』フランツ・カフカ著〜それは夢の世界であった。

青年の放浪と成長の物語といえば一見よくありそうな設定なのだが、カフカの書くそれはやっぱりなんだか異質なものとなっている。突如現れるそのひずみに虚をつかれ思わず二度読みしてしまう。 別段、文章じたいに変わった印象は受けない。とても簡素で読みや…

感想『かくも激しく甘きニカラグア』コルタサル著〜<永遠にあの6月を> 1979年6月ニカラグアにおけるサンディニスタ民族解放戦線の革命成功。後の復興と反革命勢力(コントラ)との闘いを老コルタサルがその両眼で見て、肌で感じて、紙に記したルポルタージュ。

中央アメリカの小国ニカラグアは1937年~1979年の間、アメリカの武力干渉を受けた国家警備隊を背景とした親米政権の独裁を受けていた。 ソモサ王朝と呼ばれたその政権はソモサ一家3代にわたる世襲政権でニカラグアの国内総生産の約半分を一家の系列企業で独…

感想『愛しのグレンダ』フリオ・コルタサル著〜コルタサル読みはじめの幸福。恋人が寝息をたてて眠るその横で、彼は〈自分にむけて〉物語を話しだす『自分に話す物語』。

優しいけれどちょっと馬鹿。 そんな男の語る倒錯したラブストーリーってやつがあるとしたら、それは個人的にとても好きなジャンルの小説だ。いちいち主人公の言うことが共感できて、こころがリズミカルに弾みだす感覚が味わえる。 本書『グラフィティ』『自…

感想『三十歳』インゲボルグ・バッハマン著〜私たちは全てを欺いている。そしてそれを社会から、人生から侮辱され続ける。

インゲボルク・バッハマン(1926~1973)。オーストリアの詩人、小説家。 1949年、23歳の時マルティン・ハイデッガーに関する論文で哲学の博士号を取得する。 学生時代パウル・ツェランと恋仲にあったことでも有名。二人の往復書簡は2008年に公表され、『バ…

感想『息吹』テッド・チャン著 ~著者は寡作の王にして当代最高のSF短編作家といえる。デビューから現在までの29年間に出した本は、わずか2冊。全部で18編の中短編しか発表していない。にも関わらずヒューゴー賞、ネビュラ賞、シオドア・スタージョン賞、星雲賞など世界の名だたるSF賞を合計20冠以上も獲得している。これはただ事ではない

17年前に刊行された第一作品集、『あなたの人生の物語』を読んだときも、衝撃を受けたのを覚えている。当時の印象は、とにかく知的だということだ。ひどく洗練されている。SFというジャンルは、出版された時点での社会のテクノロジーの進み具合によって、…

感想『北回帰線』ヘンリー・ミラー著〜<百色の語彙>原始の太陽は安宿に泊まる。〜アナイス・ニンによる序文は序文史に残る名文と言える。そしてその序文が示す通りの爆発的名作。

もしかしてこれは・・(ページをめくる手を止める) まさかね。う~ん・・(思い出したり考えを巡らす) いや、すごいけど・・・(3ページほどさかのぼる) いやいやいやいや・・・(深呼吸) やっぱりそうか。・・・(気づき) ああ、すげえ。・・・(おし…

感想『人間この劇的なるもの』福田恒存著〜人間はただ、生きることを欲しているのではない。現実の生活とはべつの次元に、意識の生活があるのだ。それに関わらずには、いかなる人生論も幸福論もなりたたぬ(本書より抜粋)。エッセイのように読みやすく、哲学書のように深い、私の人生の指南書。

A:福田恆存にあった?小林秀雄の跡取りは福田恆存という奴だ。これは偉いよ。 B:福田恆存という人はいっぺん何かの用で家へ来たことがある。あんたという人は実に邪魔になる人だと言っていた。 A:あいつは立派だな、小林秀雄から脱出するのを、もっぱら心…

感想『恐怖と愛の映画102』中野京子著 +ぼくたちのファム・ファタール+ ~一本につき2ページ半の文章と一枚の写真カットにより構成されるサクサク読める映画エッセイ。映画という媒体の素晴らしさを再認識させる明察、名文のオンパレード。

A 自分の人生の主役は自分だ。となると、他人の人生においては、誰もが脇役でしかない。 B 小説にしても映画にしても、敵役が強力でなければヒーローも輝かない まるで箴言のように印象的な書き出しでエッセイは始まる。 ほうっと思う間もなくあらすじの説明…

感想『三体Ⅲ』死神永生・上下~人類VS三体人。超絶スケールの大SFここに完結する。

〜あらすじ 全作において一時的に三体文明をしりぞけることに成功した人類。その一方で、極秘のプランが進行していた。 『階梯計画』といわれるこの計画は、三体文明に人間のスパイを一人送り込むという奇想天外なものだった。この不可能とも思えるプロジェ…

書評『三体Ⅱ~黒暗森林上・下』劉慈欣著~傑作!!SF好きなら、いやそうでなくても 読んでおいた方がいい!圧倒的エンターテイメント!特にこの2部!黒暗森林編!!

〜あらすじ 四百数十年後に地球に到達する三体人の大艦隊。 一方人類は、ソフォンによる監視と妨害により、対抗するための科学的発展もままならない。 起死回生の一手をさぐるべく、面壁計画を実行する人類。 計画を託された4人の面壁者のメンバーに葉文傑…